初めての不動産購入ガイド⑤ 〜予算から考える不動産購入戦略〜

夢のマイホームや投資用物件を購入する前に、無理のない予算計画を立てることが成功の第一歩です。
そこで本章では、年収や目的に応じた予算設定の考え方について詳しく解説していきます。


3.予算から考える不動産購入戦略

a. 年収別・目的別の予算設定ガイド

無理のない住宅購入を実現するためには、年収に応じた借入可能額を知っておく必要があります。

居住用不動産(マイホーム)購入時の住宅ローン借入額は、「年収の5〜7倍」が一般的な目安とされています。これは、返済負担率(年間返済額が年収に占める割合)で25~35%以内で収まるように計算されています。

以下では、返済負担率を25%にし、35年ローン、1.81%の金利で想定した毎月の返済額目安と、借入可能額を表にしています。

年収毎月返済目安借入可能額目安
400万円約8.3万円約2,540万円
500万円約10.4万円約3,180万円
600万円約12.5万円約3,830万円
700万円約14.6万円約4,440万円
800万円約16.7万円約5,080万円
900万円約18.8万円約5,730万円
1000万円約20.8万円約6,370万円


この表はあくまでも一例であり、金融機関ごとに審査基準が異なり、勤務先や勤続年数、他の借入状況、家族構成なども考慮されます。

また、住宅ローン以外の借入(自動車ローン、教育ローン、リボ払い等)がある場合は、合算して審査されるため、上記より減額されることがあります。

b. 隠れコストを含めた総費用の計算方法

不動産購入において、物件価格だけに注目していると思わぬ出費に驚くことがあります。実際の総費用を正確に把握するためには、購入時の諸費用と購入後の継続的な維持費を含めた計算が不可欠です。

i.居住用不動産の総費用計算

居住用不動産購入時の諸費用は物件価格の5~8%と言われています。

以下、諸費用として加算される項目を紹介します。

仲介手数料:物件価格×3%+6万円(税別)がかかるが、売主から直接購入する場合は不要。
登記費用:所有権移転登記、抵当権設定登記があり、登記費用は物件規模による。
住宅ローン諸費用:事務手数料や保証料、団体信用生命保険、印紙税がかかり、合計で50~100万円程度。
火災保険料:物件構造や保険期間によって異なる。
固定資産税都市計画税の日割り分

購入後の諸費用としては、以下が挙げられます。

マンションの場合(マンションによって異なる)

固定資産税都市計画税
管理費
修繕積立金
・駐車場代

戸建ての場合

・固定資産税
・都市計画税
・諸設備、塗装等の修繕費
・自治会費

合計すると、年間で50~100万円程度

ii.投資用不動産の総費用計算

投資用不動産は居住用と異なる費用構造を持ち、収益性の観点から総費用を評価する必要があります

以下、諸費用として加算される項目を紹介します。

仲介手数料:居住用と同じく、物件価格×3%+6万円(税別)
登記費用:所有権移転登記、抵当権設定登記があり、登記費用は物件規模による。
不動産投資ローン諸費用:事務手数料、保険料や団体信用生命保険等、合計で借入額の3%程度。
火災保険料:建物構造や築年数により大きく変動する。賃貸人賠償責任保険も付帯しているものが一般的。
不動産取得税:固定資産税評価額×4%(住宅・土地は3%)
印紙税:売買契約書や金銭消費貸借契約書についてかかる。

購入後の諸費用として、投資用不動産には居住用にはない運営費が発生します。

税金:固定資産税・都市計画税:年間物件価格×1.4%〜1.7%程度
建物管理費:区分マンションの場合管理費・修繕積立金が自己負担となる。
賃貸管理費:管理会社への委託料は家賃収入の5~10%が一般的。自己管理の場合はこの費用は発生しない。
修繕・メンテナンス費:退去時の原状回復費は一部屋当たり10~50万円程度、エアコンの設備交換費等もかかる。
空室損失:地域や物件による。
その他運営費:広告費や税理士費用、各種保険料など。

また、投資用不動産では、以下の項目の考慮も必要です。

減価償却費:建物部分は減価償却により、所得税の節税効果あり。木造は22年、鉄筋コンクリート造で47年償却可能。
借入金利の影響:金利上昇リスクが収益性に直結する。
売却時費用:仲介手数料が売却価格の3%+6万円であり、さらに譲渡所得税(短期譲渡で39%、長期譲渡で20%)も課税される。

c. 「無理のない返済計画」の立て方

不動産購入において最も重要なのは、長期間にわたって継続可能な返済計画を立てることです。一般的に住宅ローンは25年〜35年という長期間の返済となるため、現在の収入だけでなく将来の収入変動リスクも考慮した慎重な計画が必要です。

i.返済比率の目安

金融機関の審査では年収に対する返済負担率を重視します。

一般的に年収400万円未満では30%以下、年収400万円以上では35%以下が目安とされていますが、実際の生活を考慮すると年収の25%以下に抑えることが理想的です。

例えば年収600万円の場合、年間返済額は150万円以下、月額12.5万円以下が安全圏といえます。

ii.ライフステージの変化を考慮

返済期間中には結婚、出産、転職、親の介護など様々なライフイベントが発生する可能性があります。特に共働き世帯では、出産・育児による収入減少期間を想定し、単独収入でも返済可能な金額設定が重要です。

また、子どもの教育費は大学まで一人当たり2,000万円以上かかる場合もあるため、教育資金と住宅ローンの両立を考慮した計画が必要です。

iii.金利変動リスクへの対策

変動金利を選択した場合、将来的に金利が上昇すると返済額が増加するリスクがあります。
現在は低金利ですが、これが永続する保証はありません。したがって、金利が 1~3%程度 上昇した場合を想定した複数の返済額シミュレーションを行い、返済負担が耐えられるかどうかを事前に確認することが重要です。

一方、固定金利型を選ぶと、当初の金利が変動金利より高めでも、返済額が一定に保たれるため、長期的な金利上昇リスクから守られ、安定性を重視するには有力な選択肢となります。

iv.緊急時資金の確保

住宅ローンを組む際は、頭金に加えて生活費の6ヶ月分程度の緊急時資金を手元に残しておくことが重要です。

病気や失業などで収入が途絶えた場合でも、当面の返済を継続できる資金的余裕を確保しておくことで、返済不能リスクを大幅に軽減できます。

d. 住宅ローンと不動産融資の違い

住宅ローンと不動産投資融資(アパートローン等)は、同じ不動産を担保とする融資でありながら、審査基準、金利、条件が大きく異なります。この違いを正しく理解することは、適切な資金調達戦略を立てる上で不可欠です。

i.融資目的と審査基準の違い

住宅ローンは居住用不動産の購入を目的とし、借り手の年収、勤続年数、信用情報を主な審査基準とします。安定した給与所得者が有利で、年収倍率は一般的に7倍程度が上限となります。

一方、不動産投資融資は収益物件の購入を目的とし、物件の収益性(家賃収入)と借り手の資産背景を重視します。物件の収益性が返済資金の元となるため、賃料収入と返済額の比率が基準となります。

ii.金利水準の差

住宅ローンは政策的な優遇もあり、変動金利で0.3%〜0.7%程度の低金利が適用されます。これに対し不動産投資融資は事業性融資として位置づけられ、変動金利で1.5%〜4.5%程度と住宅ローンより高い金利設定となっています。この金利差は投資収益に直接影響するため、不動産投資の採算性を左右する重要な要素となります。

iii.融資条件と返済期間

住宅ローンは最長35年の長期融資が可能で、借り手の年齢と返済完了時年齢(通常80歳未満)で返済期間が決まります。不動産投資融資は物件の法定耐用年数から築年数を差し引いた期間が融資期間の目安となり、木造物件では築浅でも20年程度、中古物件では10年以下となる場合もあります。また、住宅ローンでは団体信用生命保険が金利に含まれる場合が多いのに対し、不動産投資融資では別途保険料が必要となる場合があります。

iv.税務上の取り扱い

住宅ローンの利息は住宅ローン控除として所得税から控除されますが、不動産投資融資の利息は不動産所得の必要経費として計上できます。

住宅ローン控除は控除額に上限がありますが、不動産投資融資の利息は全額経費計上可能で、他の所得との損益通算も可能です。

e. キャッシュフロー戦略

不動産投資において最も重要な指標の一つがキャッシュフローです。キャッシュフローとは、家賃収入からローン返済額や管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険料、空室・滞納リスクに備えた予備費など、投資運営に必要なすべての費用を差し引いた実際に手元へ残る資金のことを指します。

この指標は、単なる収支の差額ではなく、物件が長期的に健全な運営を続けられるかどうかを判断する核心的な要素です。キャッシュフローが安定的にプラスであれば、家賃下落や修繕などの突発的な支出にも対応でき、投資リスクを大きく抑えることができます。一方で、キャッシュフローが小さい、またはマイナスの状態では、運営が外的要因に左右されやすく、資金繰りが悪化する可能性があります。

そのため、物件購入前の段階で、金利上昇や空室率の変動を織り込んだシミュレーションを行い、複数のシナリオでキャッシュフローが持続的にプラスを維持できるかを確認することが不可欠です。

i.キャッシュフローの計算構造

キャッシュフローは「年間家賃収入−年間返済額−年間経費」で計算されます。年間経費には固定資産税、管理費、修繕積立金、保険料、管理委託料などが含まれます。プラスキャッシュフローは毎月手元にお金が残る状態、マイナスキャッシュフローは毎月持ち出しが発生する状態を意味します。不動産投資の基本はプラスキャッシュフローの維持ですが、減価償却による節税効果を含めたトータルリターンで判断することも重要です。

ii.返済方法によるキャッシュフローへの影響

元利均等返済では返済額が一定で資金計画が立てやすく、元金均等返済では当初返済額が高いものの総返済額は少なくなります

不動産投資では安定したキャッシュフローを重視するため、元利均等返済を選択するケースが一般的です。また、返済期間を長く設定することで月々の返済額を抑え、キャッシュフローを改善することができますが、総返済額は増加するというトレードオフがあります。

iii.空室リスクとキャッシュフロー管理

賃貸物件では必ず空室期間が発生するため、満室想定家賃収入の85%〜95%程度を実効家賃収入として計算することが現実的です。空室率5%〜15%を想定し、その範囲内でもプラスキャッシュフローを維持できる物件選択が重要です。

また、大規模修繕や設備更新に備えて、キャッシュフローの一部を修繕積立として別途積み立てておくことで、突発的な支出に対応できる財務基盤を構築できます。

iv.税務を考慮したキャッシュフロー最適化

不動産投資では減価償却費という実際の支出を伴わない経費計上により、帳簿上は赤字でも実際にはプラスキャッシュフローとなる場合があります。この仕組みを活用することで所得税の節税効果を得られますが、減価償却期間終了後や売却時の税務影響も考慮した長期的な戦略が必要です。また、青色申告による65万円控除や、修繕費と資本的支出の区分など、税務知識を活用することでキャッシュフローを最適化できます。


ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回のコラムでは、「物件探し・物件情報の入手方法」について解説します。
楽しみにお待ちください!

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